郷土人形ずかん

風俗もの

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 郷土人形はその地方独特の風習や様相などの風俗を反映したものが多い。角兵衛師子は新潟県西蒲原郡月潟村(現在の新潟市南区月潟)を発祥とする郷土芸能で、少年少女たちの演ずる軽業の獅子舞。起源は宝暦期(1751~64)頃まで遡れる。この子ども達の殆どは孤児で、親方に連れられて一年中諸国を巡業し、6月25日の月潟村の地蔵祭には村に帰って芸を奉納した。娯楽を楽しむ余裕などなかった庶民にとってはそれは待ち望まれる楽しみの一つだったであろう。

写真:新潟県村上市 村上土人形

童子もの

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 時代・地域を問わず、子供の健やかな生長を願うのは親や周囲の人々の常である。子どもが生まれると、元気な強い子になるようにと願って金太郎や桃太郎などの人形が飾られた。また、飛躍を意味する鯉や、幸運にあやかる鯛を抱いた童子の人形も縁起が良いとして喜ばれた。

写真:鹿児島県姶良市 帖佐土人形

歌舞伎もの

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 世相が落ち着いてくると、庶民も芝居や歌舞音曲などを楽しむ余裕がもてるようになる。上方や江戸の歌舞伎は地方でも評判となり、役者が演じた物語や歴史上の人物などの人形が各地で盛んに作られた。数少ない娯楽の中でも、そういった歌舞伎の人形は、人々を非日常の世界へと誘う楽しみのための人形であったのかもしれない。

写真:愛知県碧南市 棚尾土人形

縁起物

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 縁起とは寺社の来歴を説いたものをいうが、縁起物とは参詣人が神仏の縁起を祝い、そのお陰を蒙っていいことがあるようにと祈って社寺や社寺前の店で買い求めるものをいう。山梨県御岳金桜神社の虫切り鈴は金色に塗られた素焼きの鈴を五つ、紐(本来は紅白の紐)で繋いだもの。子孫繁栄のしるしとして参詣者に授与され、子どもの腰に吊るしたり、飾ったりして遊ばせた。そのうちに糸が切れて鈴がバラバラになるとと「疳の虫が切れた」として祝う“虫封じ”の習わしが込められている。

写真:山梨県甲府市 甲州土鈴

女もの

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 古今東西、美しい女性の人形はいわゆる「人形」の代名詞といえる。見た目に美しい女性の人形は、年齢性別を問わず大切にされた。題材としても女性の何気ない立ち居振る舞いはもちろん、憧れの歌舞伎や芝居のヒロインなど、様々な美人の人形が作られた。

写真:岩手県花巻市 花巻土人形

天神人形

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 学問の神様であり、子どもの守り神ともされる「天神さま」の人形は、天神信仰と相まって古くから全国通津浦裏で制作された。その中にはその土地の文化や歴史の中で形成された様々な「天神さま」があり、それぞれ特色があって面白い。

写真:福岡県北九州市 文字ヶ原人形

動物もの

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 人々の身近にいる動物もまた、人形作りの題材として利用された。その中でも犬はもっとも多く題材として用いられた。古代より人間のパートナーとして愛された犬の存在は今も昔も大きいものがある。

写真:宮崎県宮崎市 佐土原土人形

こけし

 こけしは轆轤でひいたシンプルな木製の人形である。もともと東北地方の冬場の農閑期に庶民の玩具として作られていたが、江戸時代末期(文化文政期=1804~1830)頃から、近隣の温泉場で湯治客に 土産物として売られるようになった。素朴な形は同じだがそれぞれの特色を生かした文様や色彩、顔だちなどが愛らしい



歴史物

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 郷土人形に伝説や物語を題材に取ったものも多い。写真の人形は小野道風をあらわしたもの。書道家として大成する前の道風が、失敗しても何度も何度も柳に飛びつく蛙を見て、努力をすれば、必ず望みは叶うと感じ入った、という伝説。傘をさした道風がじっと見つめる目線の先には柳に飛びつく蛙がいる。

写真:島根県浜田市 長浜土人形

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 そもそも人形の始まりは「人形=ひとがた」を作って、様々な災厄を人のかわりに背負ってもらう、ということであった。平安時代には紙で作った雛人形を川に流す風習があり、雛人形は子どもの「厄除け、守り雛」という意味合いが強くなっていった。その後、この行事が節句行事と結びつき、雛飾り・雛祭りとして発展してったのである。鳥取県は現在でも流し雛行事が盛んで、豪華さはないが温かみのある雛人形が多く作られている。

写真:田舎びな 布人形

武者物

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 美しい女ものの人形とともに、歴史上の戦国武者もまた、題材として大変好まれた。勇壮な戦いの物語が、人々に好んで迎えられたからであろう。武将の中で最も好まれたのは豊臣秀吉である。百姓から身を起こして関白まで上り詰めた英雄の物語が、時代を問わず、人々にもてはやされたのであろう。

写真:福岡県福岡市 今宿土人形

童話物

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 童話の世界の主人公は子どもの生長と重ねられることが多い。特に、強く元気な金太郎の人形は、男の子のいる家庭にとっては大変喜ばれた。写真の金太郎は、山の中で山姥に育てられ、たくましく育ったという童話から題材をとったものである。

写真:広島県三次市 三次土人形

その他

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 神社の授与品としての土鈴や土笛、干支人形などの縁起物、地域の特色をもった玩具などがある。いずれも無病息災を願った庶民の歴史を物語る心温まるものばかりである。

写真:岩手県花巻市 花巻土人形